歯科の事業計画書は適切に準備することが、歯科開業を成功させる近道とも言えます。
事業計画書をもとに事業は進んでいくため、ポイントを押さえて確実に作成する必要があり、開業前のもっとも重要な取り組みでしょう。
ここでは歯科を開業する際の事業計画書を8つの項目別に解説するほか、使える3つのテンプレート、作成時の注意点を順にご紹介していきます。
歯科の開業を検討している方にとって必要な情報が盛りだくさんですので、ぜひチェックしてくださいね。
歯科の開業に事業計画書が必要な理由
事業計画書とは、ビジネスの目標や戦略、収支の計画などをまとめた文書です。
事業計画書には事業の運営の仕方を始め、提供するサービスの詳細、予想される売上や人件費等の経費も算出し、かなり細かな計画を文書化します。
一見面倒な書類に感じますが、この事業計画書は資金調達やリスク対策、事業の明確化が出来る公式な書類として様々な面で有効に活用できます。
また、事業計画書で算出した財務計画は開業後の収支の指標となるので非常に役立ちます。
以下では歯科の開業にあたり、事業計画書が必要になる大きな理由を3つ紹介します。
金融機関から資金調達するため
歯科医を開業する際には、内装や設備にも高額な費用がかかるため、数千万円の資金が必要になります。
すべての資金を自己資金でまかなえない場合は、金融機関からの融資を受けることになるでしょう。
融資制度を使って資金調達をする際には審査があり、必ず事業計画書が必要です。
この事業計画書は、融資の可否を決定する重要な書類です。
融資を行なう金融機関は、事業計画書の内容から、融資するに足る信頼性や利益を出せる可能性を評価します。
また、資金調達を検討する際には返済計画も立てる必要があります。
そのため、実際の歯科医の実績などに基づいた根拠のある数字で収支計画を綿密に立て、返済能力があることを示すように記入しましょう。
開業後の事業安定のため
事業計画書を作成する際には実際の経営を想定して記入していきます。
その中で開業前からリスクや起こりうる問題に対して対策を練ることが出来ます。
ただ開業を決めて実際に運営を始めるのと、事業計画書を立てて綿密に計画を練ってリスクマネジメントをしてから運営を始めるのではどちらの経営が安定するかを考えてみてください。
どれだけ計画してもすべてうまくいくことがないのがビジネスですが、事業計画書の作成に伴って経営戦略を立てることで開業後にスムーズな運営が出来き、事業の安定を図れるでしょう。
経営の指針を明確にするため
事業計画書に指針や開業の目的を明確に示しておくことで、開業者以外の従業員が同じ方向を向いて運営ができます。
歯科を経営する場合、一人ですべての業務をこなすのは難しいので、歯科助手や受付などの従業員を雇うことになるでしょう。
その際、事業計画書に示された経営の指針を通じて一貫した運営が可能になります。
従業員だけでなく、取引先やビジネスパートナーに対しても、事業計画書の内容がしっかりしていれば、信頼のある事業として認められます。
経営の指針が明確であることは、第三者からの事業の理解と評価を得るためにも大きなメリットとなります。
歯科の事業計画書に必要な8つの項目
事業計画書には基本的なテンプレートや記入事項がありますが、歯科の事業計画を立てる際に必要な8つのポイントを一つずつ解説していきます。
歯科開業の動機と目的
まずは、歯科を開業しようと思ったきっかけや目的を記載しましょう。
歯科医院はすでに多く存在しますが、自社が事業を始めることでどんな需要に応え、それに合ったサービスがしたいのかという具体的な目的を示します。
市場や地域性を理解した上で他の競合の歯科医院とどのような違いがあるのか、独自性を明確に記入すると良いです。
開業者の職歴や実績
職歴と実績については、歯科医師になるためにどのような学歴を経たのか、そして実際に歯科医師として働いた経験のある医療機関等を記入していきます。
自身のキャリアの背景や、目指してきたマイルストーンなど、あなた自身の経歴に影響があったものなどもアピールポイントになります。
事業計画書の審査では、開業する分野に対してどの程度知識や経験があるかが大きなポイントとなります。
職務内容として、実際に行なった治療実績、取得した資格、研修やセミナーなどもすべて自身の経歴として示すことが出来ます。
取扱商品・サービス
取扱商品・サービスの内容としては、基本的な治療はどのような治療を行なうか、また矯正やインプラント等の専門的な治療を行なう予定であれば、その技術や方法も明記します。
最新の技術を採用している、オリジナルの歯科アイテムを販売するなどといった他の歯科医院との差別化を図るのであればその意図や戦略も一緒に記載してください。
また、各治療費やサービスの価格帯も明記します。
自由診療と保険診療の区別も記入し、実際の経営の中で患者の負担がどれくらいになるかも説明できるようにしましょう。
自身の開業を予定する地域の歯科医療の需要や価格相場、年齢層などを考慮した計画を立て、一日にどれほどの売り上げが見込めるのかも予測しておくとよいです。
取引先・取引関係
取引先・取引関係の内容には取引をする予定の歯科材料や機械の仕入先、歯科アイテムの外注先などを記載しますが、そこにはその取引先を選定した理由や信頼性も一緒に記載しましょう。
また、何かトラブルがあった際の予備の取引先代替えリストを作成しておくとより事業の安定性が強調されます。
それぞれの取引先との締め日や支払期限、支払方法などの取引条件も必須です。
地域のコミュニティに参加していたり、学校などに歯科指導を行なう等、収支が生まれなくてもなにか他の機関とのつながりがある場合、その内容も有効です。
従業員について
従業員の欄には、どの職種(歯科衛生士、受け付け、歯科医など)に何名雇用するかを記載します。
雇用条件に特定のスキルや経験年数が必要な場合はその条件も記載してください。
また、給与形態や、勤務時間も設定し、月の人件費を明確にしておきましょう。
事業を経営する場合に人件費は大きな固定費となるので、経営がうまくいかなかった際に大きな損失となり得る可能性があります。
規模や労働環境によりますが、人件費は売上高の25%から35%が一般的と言われています。
金融機関は人件費を含めた固定費の資金繰りも重視しますので慎重に決めてください。
借入状況
事業計画書の記入の際にすでに金融機関からの借入がある場合は正確に記載してください。
融資を受けたい時に他の機関から融資を受けている場合、審査を通過しずらくなるかもしれないという不安から記入をためらう気持ちがあるかもしれませんが、借り入れ状況は信用情報機関より確認する事が出来るので虚偽の情報を書くことはできません。
既存の借入金の用途や返済計画を正直に明示することで、信頼性を確保し、金融機関との関係を良好に保つことができます。
透明性を持って情報を提供することにより、信用を失うことはなく、むしろ誠実さが評価されるでしょう。
自信を持って正確な情報を記載してください。
必要資金と調達手段
前の項目でもお伝えしたとおり、歯科医院の開業には数千万の費用が必要になることが予想されます。
大雑把な数字を記入するのではなく、実際に予想される工事費用や備品必要資金等にいくら使うのかを明確にし、自己資金から支払う予定なのか、不足している費用を資金調達するのかを明細に記入します。
業者に見積を出してもらうことで計画の段階でも根拠のある数字を記載出来るでしょう。
資金調達の手段はいくつかありますので、金融機関からの融資や自治体の補助金、家族からの借入など、自身の資金調達の計画を綿密に立てて記入してください。
事業の見通し
事業の見通しの内容には、事業をどのように経営するのか、目標に向けた具体的な数字とステップを明記します。
まずは月の売上による収入と固定費や借入の返済額等の支出がどのようになるかを計画し、その利益率を踏まえて短期・長期における事業の収益の見通しを立て、事業拡大等の目標があるのであればその戦略も記入します。
例:〇万円以上の月の売り上げを達成後、最新機器を導入する。
紹介割引を取り入れ、3年目までに新規患者数の割合〇%UPを目指す。 など
また、将来的なビジョンがあるのであればそこに向かってどのように順序だてた事業運営をするか、説明できるようにしておきましょう。
歯科の開業に使える事業計画書3つのテンプレート
事業計画書のテンプレートは無料で手に入るので誰でも利用することが出来ます。
原則としてどのテンプレートを利用しても問題はありませんが、自身の業種にあったテンプレートがあると記載項目が網羅できるのでおすすめです。
もちろんテンプレートにだけ縛られる必要はなく、歯科の開業において自身の熱意のある戦略や、他の医院とは違うサービスを行なうアピールなどは別の添付資料として一緒に提出できます。
グラフにしたり箇条書きにしたり、書き方は自由にアレンジ可能ですが、相手が見たときにわかりやすい書類作りを心がけましょう。
まずは以下で紹介するテンプレートを参考に、事業計画書がどのようなものか確認してください。
日本政策金融公庫のテンプレート
日本政策金融公庫は日本政府が運営している金融機関です。
日本政策金融公庫は若者や女性などの限定した対象の融資制度があったり、一度事業に失敗していても再挑戦に使える融資制度があったりと、様々な需要に合わせた融資制度をもっており、中小企業でも利用しやすい条件で借入ができます。
こちらのテンプレートは一種類のみで、どの業種でもベーシックに使える内容になっています。
もし日本政策金融公庫からの融資を検討しているのであれば是非日本政策金融公庫のテンプレートを利用してください。
J-Net21(中小機構)のテンプレート
J-Net21は、中小企業に関する問題解決や情報提供をしているサイトです。
こちらのサイトのテンプレートは各種申し込みの書類や、細かい分野に分けてテンプレートを無料配布しているのが特徴です。
事業の計画の段階から、アルバイトの面接シートやマニュアルのテンプレートまで、事業の運営段階に合わせて利用できるので有効に活用してください。
また、すべてのテンプレートに記入例があり、書き方に困ったときに参考にできるのが非常に良いポイントです。
項目を絞ってしっかり計画を立てたい方はJ-Net21のテンプレートを利用してみてください。
マネーフォワードクラウドのテンプレート
マネーフォワードクラウドは会社設立の際の書類の書き方サポートや決算業務の効率化などを中心に行なっているサイトで、J-Net21のように中小企業に向けた情報も集めることが出来ます。
こちらのサイトのテンプレートの特徴は70種類以上のテンプレートが無料登録をするだけで使えるという点です。
各業種に合わせたテンプレートを用意しているので、開業する業種にあったものを見つけられるでしょう。
自身の業種に合わせたテンプレートを利用したい方は事業計画書のテンプレートを利用してみてください。
歯科の事業計画書を作成するときの注意点
ここまで事業計画書の必要性や内容について解説しました。
以上を踏まえて、さらに注意すべき点をいくつか挙げて紹介します。
事業計画は新規事業を開業するに当たって大きな基盤となります。
一つ一つの項目に丁寧に向き合い、成功への道筋を作っていきましょう。
売上高は複数パターン想定する
売上の想定は根拠のある数字で記入していく事をお伝えしましたが、実際の売り上げはもちろん一定ではありません。
保険診療ではなく、自費診療が多く、通常よりも売上が上がる事を見込んだ最高売上予想や、万が一の病気や従業員不足などで思ったように運営が出来なかった時の最低売上予想など、複数のパターンで売上高を想定しましょう。
また、これらが起こった際にどのように運営戦略を変えていくかも考えておくとより洗礼された財務計画が立てられるでしょう。
厳しく現実的な見積もりを行なう
運営に関連するすべての収支は楽観せずに、現実的な数字を出すことを意識してください。
特に固定費は売上高に関わらず、毎月出ていく支出です。
運営のシュミレーションをしながらどんなコストがかかるかを見落とさないように確認してください。
可能であれば自身の経験上のデータや、実際の実績データを参考に出来るとより現実的な見積もりが出来ます。
地域の競合・立地調査を忘れない
日本全国の歯科医院の数は2023年時点で約68,000軒とされています。
これだけ多くの歯科医院が存在しているということは競合も多く、立地調査をしっかりと行なう必要があることがわかりますね。
自身の歯科医院を開業する地域の競合の価格帯、規模、サービス内容を把握してから計画を進めましょう。
競合が多い場合でも、様々な視点から差別化を図ることが出来ます。
- 3Dプリンティング技術を導入する
- オンラインで便利に予約できる
- 外国語を話せるスタッフを配置する
- ホワイトニングに特化したメニューを作る
以上のように、ニーズに合わせた自社ならではの特徴があると事業計画書がより独自性を増し、事業への熱意が伝わります。
保険診療の入金タイミングを考慮する
保険診療を行なった場合、保険の控除分の収入はタイムラグがあるので注意してください。
入金されるタイミングを把握し、固定費や変動費の支払いに滞りがないようにキャッシュフローを管理する必要があります。
保険診療の入金まで理解したうえで資金繰りが確実に出来ることを事業計画書でアピールしましょう。
まとめ
歯科事業はすでに競合が多い業種ですが、この記事で紹介したポイントや必要事項を抑えることで信頼性のある事業計画書を作成することが出来ます。
しかし、もちろん開業時の書類作成や融資について不安に感じる事も多いかと思います。
特に多くの資金が必要になる歯科の開業では融資の審査を通過できるかどうかは大きなカギとなります。
実際に多くの起業者は専門家を味方につけて開業までの手続きを行なっているパターンが多いので、あなた一人で抱え込まずにあなたに合った専門家にサポートをしてもらうというのも有効な手段です。
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すでに融資の審査経験がある税理士によるサポートが受けられれば、財務計画やリスク対策の難しい項目も問題なく進められるでしょう。
歯科の開業までの第一歩である事業計画書の作成にこの記事が少しでも役に立つことを願っています。
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