中小規模での起業を考えている時に誰もが考えるのが、「法人」で起業しようか「個人事業主」で起業しようか、という点です。
当然やる事業の規模やそれにかかる投資金額などによって決めていけばいいのですが、最初はお金も知識もなく、どうすればいいかわからないですよね。
今回は法人と個人事業主の起業する際のそれぞれの手続き方法やそれにかかる費用をお伝えしていきます。
法人か個人事業主、どちらで起業するべきか迷っている方は是非参考にして下さい。
1:法人会社の起業手続きでやるべき5つの対応
ここでは、既に事業内容が決まっていることを前提に、法人で起業の手続きを行う方法をお伝えします。
1-1 会社の基本情報を決める
法人を設立する場合、「株式会社」「合同会社」「合名会社」「合資会社」の中から会社形態を選ぶことができます。
①株式会社
会社の代表的な形態で、株式を発行して出資を募り、株主は出資額に応じて株式を取得し配当を得るという仕組みのもとに成り立っています。
株主は購入した株式の数に応じて会社の経営に関与することができます。
会社の規模が大きくなると、株主総会によって取締役が選ばれ、取締役会で会社の代表者(代表取締役)が選ばれます。
このように「所有と経営の分離」が原則ですが、日本における株式会社の実情としては、創業者或いは創業家一族が株式と経営権を併せ持つ「オーナー企業」或いは「同族企業」という形が、実態としては多いように思われます。
②合同会社
2006年の会社法改正に伴い導入された会社形態で、経営に関する権限は出資者(有限責任社員)が持ちます。
出資を募るという点は株式会社と同じですが、株式会社の場合は経営に対する重要な取り決めなどは株主の同意が必要なのに対し、合同会社の場合は出資者同士の合意に基づいて経営が行われます。
また、設立費用も最低6万円、かかっても10~15万円程度と、株式会社のそれと比較すると安く抑えられるため、初めての法人設立で費用を気にするのであれば、一番実態に即した方法と言えそうです。
③合名会社
当事者同士の合意に基づいて経営が行われる点では、合同会社と同じ性質を有しています。
しかし、合同会社が「有限責任社員で構成された会社形態」であるのに対し、合名会社は「無限責任社員で構成された会社形態」となります。
たとえるなら、「個人事業主同士の集まり」と呼ぶのが相応しいでしょうか。
原則として各自が代表業務を執行しますが、「無限責任」であるが故、当事者全員に債務返済義務が生じます。
そのため、当事者同士の関係性が良好であれば会社経営も順調に推移すると言えそうですが、関係性が拗れてしまったり、経営が苦境に陥った際には、注意が必要です。
④合資会社
上述の合同会社、合名会社の構成社員である「有限責任社員」と「無限責任社員」が混在している会社を指します。
かつては資本金の面でも手続きの面でも設立が容易であったことから増加の傾向を見せていた時期もあったようですが、2006年の会社法改正に伴い、新たに設立するケースはあまり見られなくなりました。
会社形態が決まったら、今度は法人名(商号)です。
いわゆる「公序良俗に反する」商号や、業界職種によっては使用文字の制限があったり、商号として使えない文字もありますが、それらに抵触しなければ概ね自由に付けられます。
商号はいわば「会社の顔」ともいうべきものなので、「覚えやすい」「親しみやすい」「分かりやすい」などの要素が盛り込まれていると、対外的には認知されやすいのではないでしょうか。
1-2 資本金を準備する
事業内容、会社の種類が決まったら、次は資本金について決めます。
資本金とは、事業を起こす際に準備する元手のことで、自分で集めた資金(自己資金)や、株主や投資家などから集めた出資金も資本金として計上することができます。
かつての会社法では、最低資本金として「有限会社は300万円、株式会社は1,000万円」と定められており、会社設立にあたってのハードルとなっていました。
しかし会社法改正に伴い、現在では「最低資本金は1円からでも可能」となりました。
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1-3 定款を作成し定款認証を公証役場で受ける
「定款(ていかん)」とは、会社の基本情報や規則などが記された、いわば会社のルールブックのようなものです。
具体的には、会社の商号、事業内容、本社所在地、株式、株主総会、資本金の額などが記載されます。
定款は会社設立時に必ず作成しなければならない書類であり、記載内容も、必ず記載しなければならないもの(絶対的記載事項)、事業内容によっては記載が必要なもの(相対的記載事項)、記載してもしなくても良いもの(任意的記載事項)に分けられます。
参考サイトや専門書籍などを読みながら自分で作るのも可能ではありますが、それなりの知識と理解力が必要なため、難しければ専門家に作成を相談依頼するのも一考です。
定款が完成したら、会社の本店の所在地を管轄する公証役場に提出し、書類のチェックと認証を行います。
なお、合同会社、合資会社、合名会社の場合は、定款認証は不要です。
1-4 資本金の払込
定款の認証が終わったら、次は資本金の払込です。
資本金の払込とは、「資本金として定められた金額を、会社の発起人の口座に払い込むこと」を言います。
払込のタイミングは特に設けられておりませんが、注意点としては、「資本金と同額もしくはそれ以上の金額を振り込むこと」であり、既に同額もしくはそれ以上の金額が発起人の口座内にあったとしても、払込が必要となります。
以上のことから、一般的には定款の認証後に行われることが多いようです。
払込が終わったら、通帳表紙、裏表紙、資本金が振り込まれたページの記帳箇所(ネットバンキングの場合は、口座情報が記載されたページと、当該取引が表示されたページをプリントアウト)を用意し、払込証明書を作成します。
1-5 法務局で登記申請をする
ここまでの手順を全て行ったら、いよいよ法人登記の申請です。
事前に法人の印鑑も作成し、このタイミングで法人の印鑑登録の準備もしておきましょう。
法人登記は、本店の所在地を管轄する法務局で行います。
法人登記に必要な書類は、
・設立登記申請書
・登録免許税納付用台紙
・定款
・発起人の同意書
・代表取締役および取締役、監査役の就任承諾書ならびに印鑑証明書
・出資金資本金の払込証明書
となります。
初めての登記申請であれば、法務局の窓口に直接出向いた方が、提出書類に不備不足がないかをその場で見てもらえるため、オススメです。
逆に、昨今のコロナ渦で対面でのやり取りが不安であれば、郵送もしくはオンラインでの申請も可能です。
但し、書類に不備があった場合のやり取りに時間を要するため、注意が必要です。
詳細は最寄りの法務局のHPを確認してみてください。
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2:個人事業主の起業手続きでやるべき4つの対応
個人事業主として起業する場合、開業の届け出が必要です。
2-1 税務署に開業届を提出
個人事業主の場合、管轄の税務署に開業届を提出する必要があります。
事業開始後1か月以内に提出が求められていますが、提出しないことによる罰則は特に設けられていないようです。
但し、銀行口座の開設や各種契約、融資審査の際に、営業実態を証明する資料として開業届の提出を求められることがあります。
さらには、確定申告を青色申告で行う際には開業届の提出が必須となっていることから、本格的に事業を行う方にとっては、開業届は必須と言えます。
2-2 屋号を決める
フリーランスの方であれば、個人名がそのまま屋号(看板)となり得るため、特に悩む必要はないかもしれません。
しかし、起業に伴い新たに店舗や事務所を構える方であれば、個人名とは別で屋号(看板)を用いた方が、対外的には分かりやすく、知名度向上にも役立ちます。
例えば飲食店であれば、「和食○○」「イタリアンレストラン○○」、士業関係であれば、「○○法律事務所」「○○相談所」などとした方が、初めての方でも何のお店か、何を専門にしているのかが、すぐ分かりますよね。
2-3 所得税青色申告承認申請書の提出
個人事業主は、毎年1月1日から12月31日までに生じた所得と、それに対する所得税等の金額を計算して確定する「確定申告」の手続きが必要になります。
確定申告には、「白色申告」と「青色申告」の2種類があります。
白色申告は開始にあたっての手続も必要なく、提出書類も収支内訳書でOKなため、青色申告と比べて提出が簡単で楽とされていました。
しかし、2014年以降は帳簿の記帳と保管が義務化されたことにより、そのメリットは少なくなっているようです。
青色申告の場合は、日々の帳簿が必要なのと、書類を補完する義務がありますが、一定の水準を満たせば最大65万円の所得控除(青色申告特別控除)が認められたり、家族の給与を経費扱いにできるといったメリットがあります。
この青色申告を行う上で提出しないといけないのが、「所得税青色申告承認申請書」と呼ばれる書類です。
名前からして「何だか難しそうだな…」と構えてしまいますが、安心してください。
書類そのものは決して難しい内容ではなく、最寄りの税務署もしくは国税庁のHPからダウンロードして印刷することができます。
2-4 事業開始等届出書を提出
事業開始等申告書は、都道府県税事務所に個人事業の開業を申告する書類です。
開業届と似た内容の書類ではないかと思われますが、中身は似て非なるもので、開業届が「所得税に関するもの」であるのに対し、事業開始申告書は「個人事業税に関するもの」となります。
税の区分で説明すると、所得税が「国税」であるのに対し、個人事業税は「地方税」である為、個別に届け出が必要なのです。
中には、開業届と混同してしまっていたり、提出の必要性を知らなかったという方もいるかもしれません。
しかし、提出していなかったからといって、罰則がある訳ではありませんのでご安心を。
但し、確定申告によって個人事業主の所得情報が各都道府県にも伝わるため、課税対象になった際に納税通知書が届く仕組みになっていることに注意しましょう。
3:法人と個人事業主の設立費用の違いは?どっちがお得?
法人で起業するか、個人事業主で起業するか、費用面での違いを見ていきたいと思います。
違い① 法人設立費用は22万~24万
法人の場合、法人登記に伴う費用は、概ね22~24万前後、内訳は、法定費用(登録免許税、定款認証費用、収入印紙代など)です。
開業資金が限られている場合、人によってはこの法人登記にかかる費用負担を大きいと感じるかもしれません。
その場合は、無理をして株式会社で設立するのではなく、合同会社で設立することを検討しましょう。
合同会社の場合だと、定款作成が不要のため、その分の定款認証費用を抑えることができます。
或いは、資本金の金額をなるべく小さくするという方法もありますが、こちらは参入する業界や職種を見て慎重に判断すべきと思います。
何故なら、業界職種によっては一定の資本金額を求めている場合がありますし、何よりも設立後の対外的な信用度、更には融資の受けやすさなどにも影響してくるからです。
「資本金1円で会社設立できるから」という安易な理由で設立したはいいものの、その後事業がうまく軌道に乗らなければ、金融機関も足元を見て貸し渋ります。
融資を受けたい時に満足に受けられないなどとなってしまっては、これまでの苦労が水の泡、元も子もありません。
違い② 個人事業主は0円で起業できる
起業するにあたって、「法人格を持つことにこだわりがない」「なるべく少ない自己資金で起業したい」「面倒な手続きなく1日でも早く開業したい」などが理由であれば、まずは個人事業主として起業しましょう。
法人で起業する場合、設立費用だけで約25万程度のお金が必要になりますし、届出や申請をする関係各所も多岐に渡ります。
少しでも費用を抑えるためと、これらを自分ひとりでやろうとすると、費用以外に時間と足も取られることは、言うまでもありません。
一方で個人事業主の場合は、設立にかかる費用は「0円」で、基本的には開業届を出すだけで済みます。
届出先は最寄りの税務署、記入する内容もそれほど難しいものではなく、税務署に出向けば職員が教えてくれます。
書類の記入や手続きに慣れない方であっても、手助けがあれば半日もあれば終わるでしょう。
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結論① 設立は個人事業主の方がお得
いざ起業しても、事業が軌道に乗り始めるまでは一定の期間を要します。
中には事業開始してすぐ黒字化を達成する方もいるでしょうが、事業活動は山あり谷ありで、軌道に乗るまで赤字が続くことの方が多いのではないかと思います。
仮にその年度が赤字だったとしても、所得の有無によっては税負担がのしかかります。
そして法人と個人事業主とでは、その負担において違いがあり、「節税」という観点から見れば法人の方がメリットが多いですが、最終的な所得の金額の大小によっては、個人事業主の方がメリットがあります。
個人事業主の場合、所得が赤字であれば課税はされません。
一方で法人の場合は、会計上と税務上で計算方法が異なり、会計上は赤字でも税務上黒字となった場合は、課税される可能性があります。
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結論② 設立後に所得額が多くなれば法人の方がお得
では、ある一定期間を経て、毎月或いは毎年所得を積み上げることができるようになったならどうでしょうか。
この段階であれば、法人化を検討すべき段階であると言えます。
何故なら、所得に対して課される所得税は累進課税方式を採っているため、所得が上がれば上がるほど、課税税率も上がるからです。
一方で法人の場合は、個人事業主と比較すると、課せられる税率は緩やかであり、経費計上できる範囲が広く認められています。
「節税」という観点で見れば、法人の方がその恩恵を多分に受けられる可能性があり、やり方によっては最終的に手元に残るお金(利益)を少しでも増やすことができるでしょう。
4:面倒な起業手続きは全て専門家に代行
会社設立に関する手続きについて説明してきましたが、はたしてこれが全ての人に同様にできるでしょうか。
人によって得手不得手があります。
「苦手だな」「難しそうだな」「なるべく本業に集中したい」そんな時は専門家に依頼して、早いタイミングで本業を軌道に乗せることに専念しましょう。
4-1 自分で手続きするのはかなり大変
私はこれまでの職歴で会社設立に携わった経験がありますが、その時は今日紹介した会社設立の手続きの他にも、事業に必要な許認可の取得など、やることがかなり多岐に渡っていました。
結果、本業以外に時間や足を取られることが多く、今振り返ると、「もっと本業に時間を割きたかった(集中したかった)」というのが所感としてあります。
そう考えると、下手に費用をケチるよりは、期間限定で専門の従業員を雇ったつもりで、専門家に代行した方が費用対効果を考えるとお得だなと感じました。
関連記事:創業融資の必要書類は自分で作成するな!最大10種を専門家に丸投げ
4-2 CEOパートナーで起業の悩みをすべて解決
こちらでも度々紹介しているCEOパートナーは、創業融資において豊富なサポート実績を有しています。
事業計画書の作成から日本政策金融公庫との折衝、面談まで、提携先と連携してお客様を一貫してサポートしています。
まずは一度HPをご覧の上、問い合わせてみましょう。
4-3 司法書士や行政書士に任せる
初めのうちは業務のボリュームも少なく、言うなれば片手間でできる内容かもしれません。
しかし事業が軌道に乗り、規模もそれなりに拡大してくると、本業に割くべき時間が増えていくのは、自明の理です。
経営者の視点に立って言うなら、いかに本業(経営)に集中できる環境を作るかが課題であり、それ以外の業務については、士業と呼ばれる専門家に一任するのが得策だと思います。
4-4 専門家に任せた方がいい理由
言わずと知れたことかもしれませんが、その分野において専門知識を有しているだけでなく、実務において様々な知見・経験を有しているからです。
また、その分自分自身は本業に集中できるため、早いうちから目的を達成できる可能性が広がります。
自分自身の経験・知見を広めるという意味では、長い目で見れば地となり肉となるでしょうが、本業との兼ね合いで、直接的に役に立つのか、間接的なのかを見極め、後者であれば「選択と集中」という観点で、自分の負担を減らす方向に舵を切るべきだと思います。
まとめ
私自身、会社設立に携わっていた当時を思い起こすと、自分がこれまで経験していた知識やスキル以外にも知らないことが多く、未知の分野に対するワクワクと同時に、困惑もありました。
今となっては貴重な経験をしたと言えますが、自らの起業に置き換えて考えてみると、「自分のやるべきことや目標に最短距離で到達するためには、敢えて本業以外に手を付けない」ことが最適解ではないかとも思います。
確かに、自分の能力やスキル、得手不得手を知った上で、自分でできることをやるのは勿論、それ以外のことにも取り組もうとする姿勢は必要です。
しかし、物事の優先順位を組み立てる際に「今必要なのか(重要なのか)」という指標を用いて考えた時、あなたの答えはどうでしょうか。
不得手・短所に取り組み、克服することも大事かもしれません。
一方で、得手・長所を存分に活かした方が、事業を通じて多くの人々に貢献できるかもしれません。
先にも後にも、あなたなりの答えを見つけて頂ければ当サイトとしても幸いです。
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